“相続と贈与が一体化”ってどういうこと?改正の狙いと私たちへの影響を税理士が解説

制度解説

近年の税制改正で注目されている「相続税と贈与税の一体化」
これまで別々に扱われてきた相続と贈与が、より一体的に課税されるようになりました。
「生前に贈与しておけば安心」と言われた時代から、いまや“贈与も相続の一部”と捉える時代へ。

本記事では、一体化が進められた背景や改正のポイント、そして一般家庭への影響をわかりやすく解説します。
「家族への思いをどう託すか」に焦点をあて、これからの“上手な資産の渡し方”を税理士の視点からお伝えします。

近年改正があった「相続・贈与一体化」とは?

近年の税制改正で、「相続税と贈与税の一体化」という言葉を耳にする機会が増えました。
これまで別々に考えられてきた二つの税金が、どのように結びついて見直されたのか。
まずは、改正の概要とその背景をわかりやすく整理していきましょう。

一体化とは?制度改正の概要をわかりやすく整理

「相続税と贈与税が一体化する」
そんなニュースを耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。
これは、2024年度の税制改正で導入された 「相続税と贈与税の一体課税への見直し」 の流れを指しています。

これまで日本では、「贈与税」=生前に財産をもらったときの税金「相続税」=亡くなった人の財産を相続したときの税金、というように、別々の制度として運用されてきました。

しかしこの2つは、もともと「財産の移転」に関する税として密接に関係しており、どちらか一方だけで課税関係を完結させることが難しい性質を持っています。

そこで国は、“生前贈与も含めて相続全体で課税する” 方向に制度を整えてきました。
これがいわゆる「相続と贈与の一体化」と呼ばれる考え方です。

これまでの「相続税」と「贈与税」はどう違っていたのか

まず、従来の制度の違いを簡単に整理してみましょう。

項目相続税贈与税
課税のタイミング死亡により財産を受け取ったとき生前に財産をもらったとき
基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人の数毎年110万円まで非課税
税率累進税率(10~55%)累進税率(10~55%)
主な対象相続人(配偶者・子など)誰でも(子・孫・親族・他人でも)

一見似たような仕組みに見えますが、贈与税は「毎年110万円まで非課税」というルールがあり、
この制度を活用して「毎年少しずつ贈与しておけば相続税が節税できる」と考える人が増えていました。

ところが、実際には形式だけの贈与(いわゆる名義預金)や、節税目的の連年贈与が広がり、制度の趣旨から外れた運用も多く見られるようになりました。

一体化が進められた背景

一体化が進められた背景には、高齢者に資産が集中する現状と世代間格差の問題意識など、社会全体の資産構造の変化があります。

日本では、60歳以上の世代が金融資産の約6割を保有しており、若い世代への資産移転がなかなか進まないことが問題視されてきました。
「資産を持つ世代」と「使う世代」がずれてしまっている」 状況です。

贈与税の制度をうまく使えるのは、もともと資産に余裕のある家庭に限られることが多く、結果的に「節税できる人」と「できない人」との格差が拡大する懸念がありました。

こうした状況を受け、政府は次の目的で制度の見直しを進めています。

  • 「贈与税と相続税の課税の仕組みをより一体的に」
  • 「富の集中を防ぎ、世代間の公平を確保する」

その具体的な改正内容が、次章で解説する「相続開始前3年→7年への拡大」や「相続時精算課税制度の見直し」です。
これらが、実質的に“相続と贈与の境界線を曖昧にした”ポイントとなっています。

制度の背景:国がめざす「公平な資産移転」

相続税と贈与税の一体化は、単なる「税金の仕組み変更」ではありません。
その背景には、社会全体で進む高齢化や資産の偏在など、国が抱える大きな課題があります。
ここでは、制度が生まれた目的と、なぜ今見直しが求められているのかを見ていきましょう。

相続税・贈与税が作られた本来の目的

相続税と贈与税は、どちらも「財産の移転」に対して課税する仕組みです。
その根底には、一部の富裕層に資産が集中することを防ぎ、経済の公平性を保つ という目的があります。

もともと日本の相続税制度は戦後に導入され、社会全体で財産を循環させることを重視してきました。
財産が代々一部の家系に偏ってしまうと、経済格差が固定化し、社会の活力が失われるという考えのもとに、相続税と贈与税は“セット”のような位置づけで設計されてきたのです。

ただし、理想と現実の間には大きなギャップがあります。
制度の趣旨が浸透する一方で、「節税対策」としての贈与が一般化し、本来の目的である「公平な資産移転」が見えづらくなってきました。

「節税目的の贈与」が広がった過去10年

ここ10年ほどの間に、「生前贈与で節税を」という考えが広く浸透しました。
多くの方が、毎年110万円の基礎控除 を使って少しずつ財産を移転する「暦年贈与」を行っています。

しかし、実際の現場では、次のようなケースが増えています。

実際には本人が通帳を管理しておらず、名義だけ子どもになっている
「毎年110万円ずつ贈与」と口頭で決めただけで契約書がない
贈与の意図を記録しておらず、税務調査で“贈与が成立していない”と指摘される

これらはいずれも、形式だけの贈与であり、「名義預金」と判断されるリスクがあります。
名義預金とみなされると、その財産は贈与ではなく「相続財産」として扱われ、結果的に相続税の課税対象になることも少なくありません。

つまり、「節税のつもりで行った贈与」が、逆に税負担を増やしてしまうケースもあるのです。

国が見直しに踏み切った理由

こうした実務上の混乱や格差の拡大を受け、国は制度の見直しを本格化させました。

背景には次の2つの課題があります。

  1. 制度の複雑化
     暦年贈与・相続時精算課税・特例贈与(教育・住宅資金)など、
     複数の制度が並立した結果、「どれを使えばよいかわからない」状態になっていました。
  2. 税負担の不公平感
     贈与税を活用できるのは、資産に余裕がある家庭に偏りがちで、
     所得や資産が少ない家庭との間に差が生まれていました。

国は、こうした課題を踏まえ、「富の世代間格差を縮小し、制度をよりシンプルにする」 ことを目的に、相続税と贈与税を“より一体的に運用する”方向に舵を切ったのです。
この流れの中で生まれたのが、次章で解説する「7年ルール」や「相続時精算課税制度の見直し」
これらの改正が、実質的に“相続と贈与の垣根を低くする”ことにつながっています。

どこが変わった?改正のポイントを整理

相続税と贈与税の一体化に向けた改正は、2024年度から段階的に進められています。
特に注目すべきは、「3年→7年ルール」「相続時精算課税の見直し」 の2点。
これらは、相続と贈与の境界をより一体的にとらえる大きな転換点となりました。
ここでは、主な改正内容とその意味をわかりやすく整理していきます。

「相続開始前3年以内の贈与」→「7年以内」に拡大

従来、相続税の計算では「相続開始前3年以内に行われた贈与」は、いったん相続財産に“持ち戻して”課税するルールがありました。

今回の改正では、この期間が 「3年→7年」に延長 されています。
つまり、亡くなる7年前までに行った贈与も、原則として相続財産に加算されることになります。

この改正の目的は、「節税のための駆け込み贈与」を防ぐことです。
亡くなる直前に財産を移すことで課税を逃れるような行為を抑制し、より公平な課税を実現する狙いがあります。

ただし、全ての贈与が対象になるわけではなく、「相続人や法定相続人に対する贈与」が中心 となります。
それ以外の人(例えば孫など)への贈与は、対象外となるケースもあります。

7年という期間は長く感じますが、実務上は「長寿化に伴って相続までの期間が伸びている」という現実も踏まえた見直しといえます。

💡ポイント
相続対策のつもりで行った贈与が、7年以内だと“結局相続財産に戻される”可能性があります。早めの対策こそが、今後はより重要に。

「相続時精算課税制度」の見直し

もう一つの大きな改正は、相続時精算課税制度の見直しです。

従来、この制度は「2,500万円まで非課税で贈与できるが、相続時に合算して精算される」仕組みでした。
しかし、一度選択すると「暦年贈与(毎年110万円まで非課税)」に戻れず、また使い勝手が悪いという理由で、利用者が非常に少なかったのです。

2024年の改正で、この制度に 年間110万円の非課税枠 が新たに設けられ、従来よりも柔軟に使えるようになりました。

これにより、次の点で実務面での負担が軽くなりました。

  • 小規模な贈与(毎年少しずつ)にも対応できる
  • 贈与税の申告手続きが簡略化される

「相続時精算課税制度」は“使いにくい制度”から、“使い分けができる制度”へと変わったのです。

💡ポイント
「暦年課税」と「精算課税」のどちらを選ぶかを、節税目的ではなく“ライフプランに合わせて判断する”流れが今後の主流になるでしょう。

特例制度(教育資金・住宅資金・結婚資金)への影響

一体化の流れの中でも、一定の目的をもつ贈与(教育・住宅・結婚資金など)は、引き続き非課税特例として活用することができます。

ただし、これらの制度は「期間延長」と「内容見直し」が繰り返されており、将来的には縮小・廃止の方向 に進む可能性も指摘されています。

  • 教育資金贈与の非課税制度 … 2026年3月末まで延長(所得制限あり)・縮小傾向
  • 住宅取得資金贈与の非課税制度 … 住宅ローン控除との重複に注意・縮小傾向
  • 結婚・子育て資金の非課税制度 … 利用要件がより厳格に・縮小傾向

いずれの制度も、「目的が明確であること」と「使途の証明」が求められます。

💡ポイント
今後は、単なる節税目的ではなく、実際の支援・教育・生活目的に即した贈与が重視されるでしょう。

今後の方向性:相続税と贈与税が“実質一体課税”に

今回の改正により、相続と贈与の間にあった“時間の壁”が低くなりました。
相続税の対象期間が延び、相続時精算課税制度も柔軟化されたことで、実質的には「相続と贈与をまとめて課税」する仕組み に近づいています。

これは、税務上の合理化というだけでなく、「資産をいつ・どのように次世代に引き継ぐか」を、家族単位で考えるきっかけにもなります。

💡ポイント
これからの時代は「生前に渡す」「亡くなってから渡す」という発想ではなく、“家族全体の資産設計の中でどう分けるか” が重要になります。

影響を受ける人と注意すべきポイント

相続と贈与の一体化は、「富裕層向けの改正」と思われがちですが、実はそうではありません。
都市部で自宅を所有している家庭や、日常的に生前贈与を行っている人など、多くの一般家庭にも関係してくる制度変更です。
ここでは、影響を受けやすい人の特徴と、注意しておきたいポイントを整理していきます。

「富裕層だけの話」ではない理由

相続税というと「一部の資産家だけに関係する税」と思われがちですが、実際には、都市部の一般的な家庭でも課税対象になるケースが増えています。

背景には、土地や住宅の評価額の上昇があります。
例えば東京都や大阪市などの都市部では、一戸建てやマンションでも評価額が高くなるケースが少なくありません。
そこに預貯金や保険などが加わると、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数) を超えることも珍しくないのです。

改正の影響は「資産家」に限らず、“普通の家庭”にも現実的な問題として及ぶ ようになっています。
「うちはそんなに財産がないから大丈夫」と考えている人ほど、改正後は課税ラインに近づいている可能性があります。

家族で“毎年贈与”していた人が注意すべき点

一体化の中で特に注意が必要なのが、「毎年110万円ずつ贈与」 をしている家庭です。

これまで、毎年110万円以内の贈与を繰り返すことで、「少しずつ財産を移して節税できる」と考える人が多くいました。
しかし、次のようなケースには注意が必要です。

実際には本人(親)が管理しており、子どもが自由に使えない
贈与の証拠(契約書・振込記録など)が残っていない

これらは「名義預金」とみなされる可能性があり、結果的に相続財産として再計算されるケースもあります。
特に、7年ルールが導入されたことで、過去の贈与もさかのぼって課税対象になるリスク が増えた点に注意が必要です。

その対策として、贈与契約書を毎年作成し、通帳や振込履歴を残すことが大切です。
「実際に使えるお金として渡した」記録を残すことで、贈与の有効性を示せます。

これからの“上手な資産の渡し方”

相続税と贈与税の一体化によって、「生前に贈与しておけば安心」という考え方は、これからは必ずしも通用しなくなります。
節税ありきではなく、家族の想いをどう次世代に引き継ぐか が大切な時代へ。
ここでは、改正後の新しい“上手な資産の渡し方”を考えていきましょう。

節税目的よりも「家族への思い」を重視する時代へ

これまで多くの人が、生前贈与を「節税対策」として捉えてきました。
確かに、相続税の負担を軽くするという実務的な側面はありますが、制度改正によって“節税だけを目的とする贈与”は難しくなっています。

国の方向性は「資産をより早く世代間で循環させる」こと。
つまり、お金を持つ人が、生きているうちに家族のために使うという考え方です。

  • 子や孫の教育費や留学資金
  • 結婚・住宅取得の支援
  • 老後の介護を担う家族への感謝の形

こうした「家族のための目的を持った贈与」は、税制上も優遇されやすく、結果的にトラブル防止にもつながります。

贈与とは「財産の前渡し」であると同時に、「想いのバトンタッチ」
相続・贈与の一体化時代では、この“思考の転換”が最も重要です。

相続・贈与を“家族の話し合いのきっかけ”に

相続のトラブルの多くは、「知らなかった」「聞いていない」ことが原因です。
一体化が進むこれからの時代、生前のうちに家族で話し合うことがより大切になります。

  • どの財産を誰に引き継ぎたいのか
  • 生前贈与を行う意図や時期
  • 相続発生後にどう分けるか

こうした情報を共有しておくことで、相続時の誤解や不満を防げます。

また、話し合いの記録を残しておくことも効果的です。
エンディングノートやメモ程度でも構いません。
「なぜこのように贈与したのか」「家族にどう生きてほしいのか」という想いを残しておくことで、相続の場での“納得感”が大きく変わります。
家族会議のような場を持つと、税務的な整理だけでなく、心情的なトラブル防止にもつながります。

贈与をするなら「記録」と「意図」を残すことが大事

制度の改正後は、「実際に贈与が行われた証拠」がこれまで以上に重視されます。
“贈与をしたことを証明できるかどうか”が、税務上のカギとなります。

信頼性を高めるためには、次の3つのステップを意識しておきましょう。

ステップ内容実務ポイント
① 贈与契約書を作る贈与の意思を明確に示す毎年作成し、署名・押印を忘れずに
② 口座振込で贈与する現金手渡しは避ける通帳に「贈与」の記録を残す
③ 贈与の目的をメモに残す教育・住宅など具体的な理由を明記通帳に手書きでもOK

こうした「形式の裏付け」があることで、税務署からの指摘や相続人間のトラブルを防ぐことができます。
税務調査では、“形式だけの贈与”が最も疑われます。
「なぜ、誰に、どのように渡したか」を説明できる準備をしておくことが、最大の防御です。

税理士が考える今後のポイント

相続税と贈与税の一体化は、「節税の手法を制限する」ためだけの改正ではありません。
国がめざすのは、“公平で透明性のある資産の移転” です。
この章では、税理士としての視点から、これからの相続・贈与の考え方のポイントをお伝えします。

一体化で「節税」の発想はどう変わるか

これまでの相続対策は、「いかに課税額を減らすか」という発想に偏りがちでした。
しかし、制度改正によって“短期的な節税”は難しくなり、中長期的なライフプランに沿った資産管理 が求められるようになっています。

  • 贈与を行うなら「7年以上のスパン」で考える
  • 相続時精算課税制度を“相続計画の一部”として活用する
  • 教育・住宅資金など、社会的に意義のある贈与を優先する

このように、単発の節税策ではなく、「家族の将来設計」とセットで贈与・相続を考える ことが重要になります。

💬 税理士の視点
「いくら税金を減らせるか」より、「どんな形で財産を渡したいか」を考えることが、改正後の“最も賢い相続対策”です。

“贈与”は単独で考えず、“相続とのセット”で考える

今回の一体化の改正によって、「生前に渡したお金も最終的には相続財産に含まれる」ケースが増えました。
つまり、贈与はもはや“相続の前倒し”というより、“相続の一部” という位置づけになりつつあります。

  • 相続時の財産分けを意識したうえで贈与を行う
  • 相続人全員が納得できるよう、贈与の意図を明確にしておく
  • 贈与と遺言を両立させておく(遺言で「贈与分」を明記する)

といった、全体を見据えたバランスのとれた設計 が大切です。

💬 税理士の視点
「相続はまだ先の話」ではなく、「相続はすでに始まっている」という意識を持つこと。
これが、トラブルのない資産承継の第一歩です。

最適な方法を見つけるには専門家の助言を

相続・贈与の税制は、今後も見直しが続く可能性があります。
ニュースで取り上げられる改正ポイントだけを追うのではなく、自分の家庭に合った形でどう活用するか を考えることが欠かせません。

特に注意したいのは、「制度の名称が同じでも、適用要件や非課税枠が毎年変わる」点です。
たとえば教育資金贈与や住宅資金贈与は、延長・縮小を繰り返しており、“数年前の記事”を参考にした判断がリスクになることもあります。

税理士などの専門家に相談することで、次の点を客観的にチェックできます。

  • 最新の制度内容の確認
  • 自分の家庭に合う贈与・相続計画の立案
  • トラブルを防ぐための書面・証拠の整備

💬 税理士の視点
相続や贈与の相談は、「相続発生前の早い段階」で行うことが理想です。
制度を理解したうえで動くことで、家族の負担も心配も大きく減らせます。

まとめ:相続と贈与の“境界線”があいまいな時代へ

今回の改正により、相続と贈与は切り離して考えられない関係になりました。
“節税”というテクニックから、“家族の資産をどう託すか”という設計の時代へ。

相続も贈与も、本質は「想いをつなぐこと」
制度を正しく理解し、記録を残し、家族で話し合うことが、結果的に最も賢く、そして温かい資産の引き継ぎにつながります。

「贈与は、想いを形にする相続」
一体化の時代こそ、そんな意識で資産と向き合うことが大切です。

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